2026年8月
8/28(木)
1コマ目は cubic 4-fold において量子コホモロジーを具体的に計算する話だった。本題に入る前に今までの復習をしてくださったのが本当に分かりやすくてかなり助かった。Givental formalism によって計算する中で、昨日良く分かっていなかった J-functuon の意味がかなりはっきり見えてきて面白かった。要するに J-function の満たす微分方程式がそのまま量子コホモロジーにおける関係式をもたらすため、J-function の具体形が分かれば量子コホモロジーのつぶれ方がだいたい分かるということだった。量子微分方程式のひとつの "解" である fundamental solution を通して、J-function と量子接続に関する"$\mathscr{D}$-加群"を Givental space の接空間だと思うことができ、これを通して量子接続は単なる微分に、量子積を普通のカップ積に翻訳することができ、J-function を明示したうえでこちらで J-function が満たす微分方程式をみつけることで、cubic 4-fold の量子コホモロジーが決定される、というような流れだと理解している。丁寧で分かりやすい解説だった。
2コマ目からは KKPY の解説②だった。まず普通のコホモロジーを($\mathsf{Hod}$ 作用付きで)考えたとき、これは分解しないし、blow up/down を通して環構造は保たれない。例えば射影空間のコホモロジー環は $$\mathrm{H}^*(\mathbb{P}^n,\mathbb{C})=\mathbb{C}[H]/(H^{n+1})$$ だから環の直積には分かれない。一方で、これの($Q=1$ の)(小)量子コホモロジー環は $$\mathrm{QH}^*(\mathbb{P}^n,\mathbb{C})=\mathbb{C}[H]/(H^{n+1}-1)$$ となり、これは環として $\mathbb{C}^{n+1}$ とより小さい構成単位に分解する。これは$\mathsf{Hod}$ 表現としての分解でもあり、しかも(これは真に驚くべき結果らしいのだが) 入谷先生の blow up formula によれば量子コホモロジーは blow up を通して環構造を保ったまま追跡することができる(らしいが、厳密に述べようとするとミラー写像を通す必要があり大変らしく誤魔化された。ステートメントを理解できる段階に私はいない)。これが多様体の双有理不変量を構成するのに非常にクリティカルに利いていて、ここと射影束に関する量子コホモロジーの挙動さえ突破してしまえばあとはあれよあれよという間に Euler ベクトル場に関する広義固有空間分解を連結成分にまとめることで Hodge atom が構成され、次元や degree の計算をすることで very general に非有理的であることが分かってしまう。本当は収束性の問題があるから非アルキメデス幾何のうえで全て行わなければならないが、雰囲気はなんとなく分かったと思う。
何かを分解したいというのは普遍的な目的意識だが、たとえばコホモロジー環の線形空間としての分解なんていうのはつまらない(これは 3=1+1+1 というような細かすぎる自明な分解であり何もありがたくない)。今回であれば群作用が入ることがまず非自明で、これの表現としての分解を考えるということが一つある。"変形"で保たれる"最小構成単位"があるならこれが不変量を与えるから、なるべく細かく分解したいが、追跡できるだけの粒度は保たなければならない。普通の代数的対象でうまくいかないならそれを少しひねる。分解を固有空間として与えるような作用素を入れる。構造を保つように準同型を整える。それぞれのアイデアはよくあるもので、ただそのアイデアを実現するのに Gromov-Witten 理論から出てくる定数の系列が必要だったり、追跡を行うための命題が必要だったりしたということだった。これで晴れて非自明さは blow up formula に全て押し付けられた。
昼は名大の方々とご一緒した。McKay をされている方や多元環の表現をやっている方がいて色々面白い話を聞けた。例の B4 の方に、午前中の講演で質問に出ていた「量子コホモロジーの直積分解が、導来圏の分解(semi-orthogonal decomposition か、あるいは full exceptional collection か)と同じ形をしている」という指摘について教えてもらった。cubic 4-fold の量子コホモロジーは、環として $\mathbb{C}\times\mathbb{C}\times\mathbb{C}\times A_X$ というように分解する。一方で同じく cubic 4-fold の導来圏も $\langle\mathcal{A}_X,\mathcal{O}_X,\mathcal{O}_X(1),\mathcal{O}_X(2)\rangle$ という半直交分解を持つ! これらは明らかに対応しているが一般には予想(Dubrovin 予想)に留まっている。他にもいろんな部分から出てくる構造に対応が予想されているっぽく、本当に面白そうだ。ミラーに魂が魅入られていくのを感じる(ミラー、だけに!)
次のコマはトーラス同変 Gromov-Witten の解説だった。つまり Gromov-Witten の全てをトーラス作用付きの多様体上で同変に書き換えていく。すると量子接続や微分に加えてシフト作用というものが入る。いまは blow-up formula のために進んでいたはずで、それにトーラス作用なんていう言葉はひとつも出てこないのだが、なぜか同変バージョンが重要らしい。
今日最後のコマは blow-up formula の解説①だった。$X$ の $Z$ に沿った blow-up を考える前に、$X\times\mathbb{P}^1$ の $Z\times{0}$ に沿った blow-up (master space と呼ぶ)を考えるらしい。ただ今日はそこまで辿り着かず、量子微分方程式に関する "$\mathscr{D}$-加群" の間に Fourier 変換の類似を導入し、Atiyah-Bott localization や Kirwan map(恥ずかしながら今日初めて聞いた)の類似として連続/離散 Fourier 変換を導入するところまでだった。かなり分からないところが多い。(そもそも、blow-up formula の正確な主張も理解できていないので当たり前である。)そもそも離散 Fourier 変換の well-defined 性は Reduction Conjecture という予想の段階らしい。というかこれのどこが blow-up formula につながるのかまだひとことも触れられていない。明日に期待。
すぐに懇親会に向かった。勇気を出して先生方がたくさん座っている机にお邪魔したのだが、隣に座られているのが川又先生であることに気付き心臓がバクバクだった。「こ、この前のゼミで先生の定理を証明したんですよ!」とか言ってしまった。いいですね、このままの方向で頑張ってほしいものですというようなことを言われた気がするが素直に考えて私が挙動不審過ぎてごめんなさい。ああ高次元代数多様体論とかしっかり読んでおけばよかった。でも学生を持っていないくらいレジェンドの先生って話をどう振っていいのか難しいところがある。それから同卓にいらっしゃった他の先生方とも色々お話しすることができた。戸田研の話や都数の話、共通の知り合いの話や過去/未来の勉強会の話など、持ちうる全ての手札を使い、基本聞き役で色々教えてもらいつつ話を回した。基本的に一番若いことを武器に無限後輩面をするのが性に合っているのでそのムーブをした。少しは覚えてもらえただろうか。覚えてもらうことを最優先にするのは間違っているとは思うが、経験上、縁は0と1の間が果てしなく広いので、「過去に同卓に居た」くらいの認識でも、あることが大事だと思っている。例の B4 の方など、深く話し込みたい人とも深く話し込めているし、結構自分比でもいい感じで交流できている気がする。
8/27(水)
今日の講演は午前のみで、午後は Free discussion となる。題目は非 Archimedes 幾何の紹介、それから KKPY の解説①であった。いちおう KKPY のイントロは多少目を通したが当然のように何を言っているか分からなかったので、今日からは本当にノーガードで突っ込むことになってしまった。
プログラムを見たときは「非 Archimedes 幾何」というのは rigid 幾何のことだと思っていたのだが、板書の一行目は「Berkovich Geometry」だった。一般の可換 Banach 環から始め付随する空間概念を定めるという流れは rigid 幾何のそれと全く同様で、Tate algebra や rational subdomain の概念も同様に進むのだが、決定的な違いは、semi-norm/valuation という、$|f|=0\Rightarrow f=0$ を外したノルム/付値を許すことによって点が増えている点にある。rigid 幾何では開集合が多すぎる(全不連結!)ので G-topology を使ってもう少し空間をくっつけるみたいなことをしなければならないが、Berkovich 幾何でははじめから普通のコンパクト Hausdorff 空間として扱うことができる。「点を増やす」というのは $\mathrm{Spm}$ の幾何から $\mathrm{Spec}$ の幾何に移行するのと同様だが、このあたりはすこし相違点もあり面白かった。KKPY その他の論文では、昨日述べたような収束性の問題を回避するために非 Archimedes 幾何を使うらしく、その準備講義であった。
ふたつめの講演は板書の一行目が「$\hat{\mathcal{C}}$ を polarizable な pure $\mathbb{Q}$-Hodge structure の圏とする」で絶望した。色々調べてみると Hodge structure の圏というのはそんなに怖い定義をしているわけでもなく、また polarizable というのもある程度良い双線形形式が入るという程度の定義だったので耐えた。これを Tate twist(この勉強会まで Tate twist のことも知らなかった...)の作用で割った圏 $\mathcal{C}$ が淡中圏になると言われて再び絶望した。これはあまり本質的に重要というわけでもなさそうだったので認めることにしたが、すると$\mathcal{C}$ は $\mathbb{Q}$ 上のある代数群 $\mathsf{Hod}$ の $\mathbb{Q}$-表現の圏 $\mathrm{Rep}_{\mathbb{Q}}(\mathsf{Hod})$ と同値になるらしくあまりにも意味が分からなくて白目をむいてしまった。よって Hodge 構造というのはその謎群 $\mathsf{Hod}$ の表現として分解して調べることができるらしい。もし $\mathrm{H}^*(X)$ (正確には、偏極を入れるためにはその primitive part ?)の中に、双有理同値で(もっといえば、weak factorization により、blow-up/down で)変化しないような $\mathsf{Hod}$ の既約表現があれば、これが多様体の双有理不変量を与えることになる。しかし cubic 4-fold などを考えるときこれはうまくいかない。ではコホモロジーの積を量子積に変えたらどうだろうか? そもそも $\mathrm{H}^*(X)$ は量子積で(収束しなければ)閉じないがうまいこと閉じるような範囲で既約表現をまとめることで双有理不変量 Hodge atom を構成することができる---これが KKPY のタイトルに掲げられた「Hodge 構造と量子積から来る双有理不変量」である、ということだった(後半は雰囲気の話で、正確な数学的主張ではない)。私が知識不足だっただけで、アイデアや経緯がきれいに整理された講演でとても面白かった。
昼は昨日に引き続き数理の先輩とごはんに行った。ラーメンを食べたかったので大学の近くでおいしそうなところを探して行った。濃厚な魚介出汁で少しスープにとろみが付いており本当においしかった。午前の講演に関する質問や J-function の具体例などの話を聞いた。
午後は free discussion だったが、知り合いも行かないようだったし、論文解説の①が終わった中途半端な段階でほうり出されてもなにもできないだろうと思ったので、さぼって小樽まで観光に行った。友人から勧められていたのに行く時間がなく残念に思っていたので時間を見つけられてよかった。札幌から小樽までは快速エアポートでも30分くらいかかる。小樽運河を見てから通りを歩いてお土産屋ゾーンに行き、目当ての LeTAO や六花亭、ガラス細工、オルゴールを見てお土産および自分用の諸々を買った。LeTAO は体感では10店舗くらいあった気がする、LeTAO を出て少し進むと少し趣を変えた LeTAO の店が再び現れる繰り返しだった。チーズケーキを試食し、とてもおいしかったが、日持ちがしないものは一旦買えなかった。小樽限定品もあったものの、看板商品などは空港などでまた買えそうだった。オルゴール堂では運よく自動演奏オルガンの試奏を聴くことができた。
札幌に戻りお土産をホテルに置いた後、数物セミナーで知り合った M1 の北大の先輩&昨日知り合った B4 の方とご飯に行った。海鮮居酒屋でお願いしたらものすごくおいしいところに連れて行ってくださって神だった。広義なめろう(海鮮ドカ盛りユッケ)がおいしかった。それぞれのやっている数学や共通点と展望、研究室事情や北海道話などゆったり話せて楽しかった。A-model 側(≒シンプレクティック側、深谷圏側)の Dehn twist が B-model 側(≒複素幾何・代数幾何側、導来圏側)の球面捻りに対応するという話と、安定性条件全体(これは複素 manifold の構造を持つ:これは知っていた)に Frobenius 多様体の構造が入ると予想されておりこれによって圏の普遍量が得られるはずであることのふたつは、衝撃を受けすぎてしばらく口を利けなかった(いい反応をするから話し甲斐があると言われた、よいことだ)。やはりミラー対称性はロマンの塊だなぁ...(✖。なぜならすべての数学はロマンの塊であるから。)まだ何も知らない段階だが、勉強したことが全て統合されていくし、どうやら考えるべき問題がたくさん残っているらしい。まだ時間はあるし、もう少しこの方向で夢を追いかけてみようと思う。
8/26(火)
午前中の題目は量子コホモロジーの基礎と Frobenius 多様体の基礎であった。内容としては Gross の Tropical Geometry and Mirror Symmetry の Chapter 2. The A- and B-models の A-model 側の前半がメインだったと思う。それから個人的に読んでいた本では Manin の Frobenius Manifolds, Quantum Cohomology, and Moduli Spaces の Chapter 2. Introduction to Frobenius manifolds に書いてあった内容が参考になった。ただしこっちは odd cohomology も含むために supermanifold 上で話しており、そういう部分で結構読むのに苦労したので、今回の講演のように even cohomology しか考えない分にはオーバーかもしれない。また "flat structure" に相当する概念の定め方が少し異なるアプローチなので私は混乱した。
Gross の方は題名にトロピカルとあり、実際トロピカル幾何や log 幾何が A-model と B-model を結ぶ本質的な仕事をするのだが、Chapter 2. は独立してこれだけで読める。$\mathbb{P}^n$ 及びその"ミラー"たる多様体という具体例での計算を通して、それぞれのモデルから生じる "semi-infinite variation of Hodge structure" という構造体の同型としてミラー対称性を述べるところまで行くので、かなり素晴らしい文章だと思う。クッソ難しいが。私は後述するように Givental の J-function のパートが微塵も分かっていないし、B-model の Gauss-Manin 接続以降はまだ文字を撫でるくらいしかできていない。
Manin の方は盆休み前後で別の本と並行して読んでいた。本当は Chapter Ⅲ. 以降で量子コホモロジーの構造を operad などを使って定式化する部分を読みたかったのだが間に合わなかったし、今回必要だったのは Chapter Ⅰ. での概観パートと Ⅱ. の Frobenius 多様体パートだった。Gross で証明が省略されている部分(例えば、pre-Frobenius 多様体において Frobenius 性が 量子接続/第一構造接続/Dubrovin 接続 の flatness で特徴づけられる話)にもこっちには証明がついていたりいろいろ丁寧なので、いったんこっちを読んでおいてよかった。どちらにせよ代数幾何では通常無いようなあり得ない計算が続いて苦しいことに違いはない。
昨日昼食をご一緒した方に B4 の参加者を紹介いただき、昼食をご一緒させていただいた。札幌はスープカレーが名物とのことだったが、魚介出汁が効いていて本当においしかった。学部生はおそらく私たちだけだろうということで何が何でも仲良くしてもらおうと思っていたが、実際興味がミラー対称性ということでかなり近く、話が弾んだ(本当に優秀な方だったので、ほとんど私が聞き専でいろいろ教えてもらうばかりだったが)。ルーツが微分幾何側か代数幾何側かという違いはあれど、同じような方向性、というか、同じようなことを面白いと思っている人がいるのは本当に嬉しいしありがたいことだなぁと思う。数物や SNS でないとなかなか知り合うことができる機会もないので北の大地まで来て本当によかった。
午後が厳しかった。題目は (Gravitational) Descendant GW と Givental formalism で、Gross の A-model 側後半プラスアルファの内容となっている。Descendant GW はアイデアも分かりやすいし、昨日の参考文献にも挙げた Kock-Vainsencher にもお話は書いてある。String Equation だとか Dilaton(Dilation ではない! Dilaton というのは超弦理論に登場する仮想上の粒子である)Equation だとか目の回るような等式があること以外はふつうの GW の refinement という感じで良いのだが、Givental formalism が全然わからない。Gross を予習で読んでいた時点で明らかに Givental の J-function の部分が地雷だと感じていたのだが、Gross でカバーしきれなかった部分(謎空間の余接束の謎 Lagrangian 部分多様体とか)もあり結局なにも分からなかった。そもそもが Novikov 環値の関数が収束するなら普通の正則関数だと思えますとか Darboux 座標で無限計算しますとか J-function はダブルクオーテーション付きの "function" ですだとか永遠にカノニカルから程遠い話をしていて結局それはなんなんのまま終わってしまった。Descendant GW の重要関係式みっつを幾何的情報としてエンコードする多様体を調べるというのはギリ分かるのだが、J-function の意味付けは結局よく分からなかった。講演者は IPMU の特任研究員の方だったので、将来お世話になりたいという気持ちも込めて少し質問をしに行った。拙い英語で質問しても丁寧に答えてくださってありがたかった。やはりこの分野だと解析ルーツの方が多いので代数ルーツがやっていけるのか不安になる。
午前の発表者の方も IPMU 所属の方(Milanov 先生のところらしい)だったので、夕飯(ザンギ本舗)をご一緒させていただいた。いろいろ IPMU 事情なども聞いたが、シンプルに講演内容とミラーの話を色々聞くことができてありがたかった。講演で良く分からなかったところや明日以降で扱う論文に関する質問などを大量にさせてもらったのだが、午後の講演で良く分からなかった formal な部分についての理解が深まってよかった。
その後札幌駅のお土産屋で ROYCE のチョコレートを買った。もとから親戚がときどき買ってきてくれる ROYCE が大好きだったので、北海道に来たからにはお土産で買って帰ろうと思っていたのだが、よく考えるとうまいものはいくら食べてもよいので、ホテルで自分で食べるためのチョコを自分で買っても、何の問題もないのだった。明日は何を食べてやろうか。
8/25(月)
今日から北大での勉強会「代数多様体の有理性と量子コホモロジー」に5日間参加する。いろいろ縁があって旅費や宿泊費をいただき参加させていただけることになった。基本的には講演を聞くだけ(ときどき free discussion がある)なので気負うことはないのかもしれないが、アルバイトの合間やお盆休みをフルに使って予習してきたので、なんとか学びを得て帰りたい。
この勉強会では、2025年8月に出た Katzarkov-Kontsevich-Pantev-Yu. Birational Invariants from Hodge Structures and Quantum Multiplication (以下 KKPY)という論文をゴールに据えている。これは Gromov-Witten 不変量の理論を応用することによって "very general な"4次元3次超曲面が非有理的(つまり $\mathbb{P}^4$ に双有理でない)であることを示した(とされている)プレプリントである。歴史的事情はほぼ知らないが、3次元3次超曲面が非有理的であることや4次元3次超曲面には有理的なものが存在することはもともと知られており、今回はそれを避ける very general な範囲での非有理性を示したということだった。
初日は stable curve/map のモジュライや Gromov-Witten 不変量の基本性質の確認がほとんどで、内容としては Fulton-Pandharipand. Notes on stable maps and quantum cohomology と Kock-Vainsencher. An Invitation to Quantum Cohomology でだいたいカバーされていると思う。これらはバイトの昼休憩で読破してきたのでまだ耐えている。間には先ほど述べたような歴史的経緯についての survey があり、3次元3次超曲面の非有理性証明の本質的な部分と、今回 KKPY でそれがどのように変形しているかという部分が解説された。3次元の場合はコホモロジー環の cup 積が効いていた部分が今回量子コホモロジーの量子積に置き換えられるとすると、それは量子コホモロジーのひとひねりが良い働きをしているということで、良いことだろうなと思った。
昼休憩のときには阪大の方と少しお話して話を聞いた。結果が出しにくい分野での学振は、こういった場での講演実績があると書きやすいだとか、あとは勉強内容と使っている本だとか、修士の方にしか聞けない話を色々聞くことができた。講演後には北大の先輩と会って、夕飯(回転寿司 トリトン)にご一緒させていただいた。その後院生室にお邪魔して音楽談義に花を咲かせていたら、ホテルのランドリーの時間を逃してしまった。今は8/26(火)の朝で、ランドリーで洗濯物を回しながら日記を書いている。乾燥がそろそろ終わりそうだ。
追記:紹介してもらった曲のひとつ。他にも理芽-笹川真生の曲をいくつか紹介してもらった。
8/8(土)
中学の先生と同級生数人で食事会をした。先生とは今年1月の成人式でも会って話したが、数えるともう7ヵ月も経っている。同級生のほうはだいたい卒業以来も会っているけれど、一人消息を聞いていなかった同級生が来てくれたので色々話を聞いた。高校を中退したとは聞いていたが、東京を拠点に音楽系含めいろいろ仕事をしているらしかった。自分が進路に描いているのはある種の公務員だから、彼のように仕事を自分の手で開拓していくような生き方は想像することが難しい。そして思っていた通り、彼はその中でも雪江やらマクマリーやらで勉強を続けているということだった。才能もあるだろうが、すさまじい活動密度であらゆる方向に手を出し自分の領分とする侵食力に関して、彼の右に出る人間は今まで見たことがない。野心家の一面を持っている人は見ていて学びになる。いろいろと考えさせられた。
二次会で人生初のバーに行った。チェーンなのでかなり入りやすい部類だったと思うのだが、それでもおおよそ交わることのない人生と聞くことのない音楽と飲むことのない酒で満たされた空間には少し抵抗があった。数時間おしゃべりしても1番目と3番目は結局なにも進歩しなかった(仲間内でしか話していないし、キウイのモクテルしか飲んでいない)。哲学科の友人は、酔ったら必ず数学という学問とその自己完結的な態度をベタ褒めしながらクソ難しい議論を仕掛けてくるのだが、今日も絶好調で、建築の友人も巻き込んで空間と時間がそれぞれの分野でどう関係するものとして扱われるのか比較するなどした。数学者が何を絶対視するのか、といった部分に興味があるらしかったので、イタリア学派の Wikipedia を見せたら、デカルトと比較しながらめちゃくちゃ興奮していた。立食のバーは議論に向いていると思っていたが、BGMがうるさすぎて声が枯れてしまう。カクテルパーティー効果で擬似的に個室のような会話のプライベート性を確保しているのかとも思ったが、単にEDMが流れていたら嬉しいから流れているのかもしれなかった。カノンが流れ始めたと思ったらEDMアレンジだったし、友人は「カノンといえば、」と哲学の話を吹っ掛けてきた。
↓ 関係ない曲 ポリスピカデリーっていいですよね
8/7(金)
今日はあるはずだった
のゼミがなくなったが、今日この本を読むつもりで動きを作っていたので、慣性でこれを読み進めた。この本は J-holomorphic curve の数え上げの問題から Gromov-Witten 不変量や量子コホモロジーを扱う本で、最後の章には Floer Homology も載って、付録含めて700ページという長大な教科書になっている(ちなみに McDuff-Salamon といったらほぼ同じ題名の "$J$-holomorphic Curves and Quantum Cohomology" という本もある。こちらは東大のライセンスで pdf を落とせるのに対し、Symplectic Topology の方は何と pdf が落とせない。東大のライセンスで落とせないなんて...)複素多様体 $M$ があるとする。この中に「曲線」を考えるとすると、素朴にはいくつかの正則関数 $$f_i:M\to\mathbb{C}$$ の共通零点集合で一次元のものを曲線と呼ぶことになる。一方複素多様体は非自明な部分多様体を持たないこともあり、また概複素構造に一般化した際にこの意味での曲線はほぼほぼ考えられない。概複素多様体 $(M,J)$ に関してより重要なのは逆向き、すなわち Riemann 面 $\Sigma$ を固定した時の、概複素構造を保つ(i.e. "J"-holomorphic である) $$\Sigma\to M$$ という「パラメトライズされた曲線」の方であるらしい。これは弦が時間発展で描く「世界面」に対応していて、3-Calabi Yau の中でこれを数え上げることがなにか物理的に重要な意味を持つんだとか、そのあたりは良く知らない。
基本的に話はシンプレクティック多様体の中で進んでいくから、7月末から8月頭にかけては Silva を読んでいた。それがひと段落してある程度言葉が分かるようになったので今回この本を読み始めたのだが、想像以上に関数解析の言葉が本質的に使われていてかなりしんどい。モジュライの滑らかさのところなんて Sobolev やら Fredholm やら今まで意識的に避けてきた言葉ばかりだった。$J$-holomorphic であるというのは要するに微分方程式的条件なので、非自明な存在性定理などを出そうとするとやはり関数解析が本質になるらしい。そもそも関数解析パートまで証明を全部追おうとしているわけではないが、それでも証明の流れだけは追っておきたいので結構踏ん張りながら読んでいる。
読みたい本はもう一冊あるが、これは Gromov-Witten や 量子コホモロジーの構造論的な部分を operad などの言葉で整理するところに興味があるので、何を数え上げているのかということに関してはあまり扱っていないようだった。お盆でなるべくシンプレクティック側から Gromov-Witten のおおもとを学び、Alper と Fulton-Pandharipande で代数幾何側からも学びつつ、多角的に理解を深めていきたいと思う。やはりこういう勉強が一番好きだ。
8/6(木)
Fourier-Mukai のゼミで、
- 標準束 $\omega_X$ が big ならば、導来同値⇒双有理同値
- $X,Y$ は、標数零の代数閉体上滑らかな射影多様体であり、その連接層の有界導来圏に三角圏としての同値 $\mathrm{D^b}(X)\simeq\mathrm{D^b}(Y)$ があるとする。このとき、$\omega_X$ が big ならば、$X$ と $Y$ は双有理であり、双有理な correspondence $X\overset{q}{\leftarrow}Z\overset{p}{\rightarrow}Y$ によって $q^*\omega_X\cong p^*\omega_Y$ である。
- 標準束 $\omega_X$ が ample ならば、導来同値⇒同型
基本的な思想は、その導来同値を与える Fourier-Mukai kernel $\mathcal{P}\in\mathrm{D^b}(X\times Y)$ を取り、$\mathrm{Supp}(\mathcal{P})$ の幾何的性質を解析するというものである。実はある程度の positivity の条件下で $\mathrm{Supp}(\mathcal{P})$ の中に $X$ や $Y$ と双有理な既約成分が存在することが言え、これの正規化が定理の主張にある $Z$ を与える。小平の補題という big と ample の間隙を測る定理があり、これを用いることで big を "generic に" ample として扱えるようになる。ここまでもかなり大変なのだが、後半の標準束の一致がかなり厳しく、$Z$ の特異点解消まで標準束を持ち上げて比較し、差として現れる例外因子を余次元2を除いてから潰し切り、Hartogs で決着となる。きびし~
8/2(日)
松村のゼミで André-Quillen (co)homology について発表した。ノートはノート類に置いた。内容の軽いまとめは7月の日記に書いたが、ノートには実際の可換環論に応用する話が追加されている。このパートはとても面白くて、合成可能な環準同型 $A\to B\to C$ から長完全列を得られることであったり、Tor を巻き込んだスペクトル系列があるために相互に計算できたりと、見慣れない強い議論を繰り返すところが見どころになっている。最後のページの、相対/絶対 (局所)完全交差/正則 が全て André-Quillen の消滅で特徴づけられることなんかあまりにも壮観で感動してしまう。
ところが、例によってホモロジーというのは本質ではなく、それを取る前を扱うのが正しいらしい。本当は Stacks Project を読んでまとめたかったのだが、諦めてしまった... いつかは倒す!
それと、本題の完交環自体の準備もしっかりやっていて、今回はグラフや幾何的説明を付け加えたりと結構手の込んだものになっている。余談だけしていたわけではありません。