2026年9月
9/2(水)
今日は数物セミナー Advanced 数え上げ幾何班の事前ゼミを行った。教科書である Ricolfi, An Invitation to Modern Enumerative Geometry のイントロ~3章の内容をまとめろとの指示だったので、Fulton の内容なども含めながらひとつの物語になるように整理した。過去イチ力を入れたし、過去イチよくできていると思う。モジュライを構成し、コンパクト化し、サイクルを交差させて積分するという軸の周りに様々な技術が開発されていく流れの中で、チラチラと仮想基本類の思想が見え隠れするのが面白いところだと思っている。私はまだ仮想基本類の構成を追っていないので偉そうなことは言えないが。
ノートを作るときにどんなことを意識しているかと聞かれた。今回のノートでは、必ず何らかの疑問や問題提起から始め(青)、例で問題やアイデアを確認し(緑)、鍵となる定義や定理によって結論を出し(赤)、スローガンとしてまとめる(紫)という流れを徹底的に貫くことにしていた。古典的な数え上げ幾何学は多くの技術が具体的な障害に対する解決と解釈できるので、こういう構成が行いやすかった。聞き手に代数幾何をだいたい仮定できたのもありがたかった。交叉理論が込み入ってしまう部分はどうしようもなかったが、refined Gysin の構成はそれ自体示唆に富んでいるし、そこから完全障害理論を取り出すことができるのは非常に重要なポイントだなぁと思う。褒められて調子に乗ったので、ノート作りについてはいつか自分で言語化しようと思っている。
そういえばギターを買っていた。富良野・美瑛のバスツアーに行ったときに、ギター始めたいなと思い、すぐにいろいろ調べて通販で初心者セットを買っていた。アンプも付いて5万ちょっとなのはすごい。すこしずつ色々できるようになっていくのは面白いが、指が痛い! この程度で痛いなんて音楽ガチ勢にとっては失笑ものだろうけれど、エンジョイ勢なので許してほしい。第二外国語でドイツ語を始めたときもそうだったが、ときどき全く新しい何かの初心者になることは気分が良いし、いろいろがどん詰まりになってしまわないために、大事だなぁと思う。
9/11(金)
今日は Huy 複素幾何のゼミで発表した。前回のゼミで3章は終わったのだが、どうやら3章付録も面白そうだぞということになり、分担して付録みっつもゼミで扱うことにしたのだった。今回は
- 3.A Formality of Compact Kähler Manifolds
一段だけ視点を高くすることで、バラバラだった概念どうしの抽象的な構造における繋がりを見出せることがよくある。今回に関しては $C_\infty$-代数というのがそれだった。これは $A_\infty$-代数の可換版で、cdga に高次のホモトピー情報を付け加えたような構造になっている。$C_\infty$-代数を通すことで、むしろ cdga に足りないものが何かということが良く分かるようになり、そのギャップから生まれる問題意識として formality や Massey product を理解することができるようになる。
一段だけ視点を深くすることで、バラバラだった概念どうしの具体的な応用における意味論を見出せることがよくある。今回に関しては有理ホモトピー論というのがそれだった。これは $\pi_{\geq2}(X)\otimes\mathbb{Q}$ の情報を扱う理論であり、多様体の de Rham 複体(あるいは空間の Piecewise Linear de Rham 複体)は有理ホモトピー型の情報をすべて持っている。有理ホモトピー論を眺めることで、コホモロジーを取ることで起きる情報の移動の幾何的な意味が分かるようになり、コンパクト Kähler 多様体の formality に幾何的な意味が生じる。
シンプレクティック類似のパートに意味論を与えるために元論文を読んでいたら、dGBV-代数に $d\Delta$-lemma 型の条件などがあると Frobenius 多様体が生じるという結果を知った。今の私にとっては Frobenius 多様体を生じることイコール良い話であることなので、良い話だと思った。(そもそも深谷圏や導来代数幾何について知りたい以上 $A_\infty$-代数や cdga についてはいつか学ばなければならなかったというのもあるから今回はいうて寄り道しているつもりもなかったが)どれだけ自由に寄り道しているつもりでも、いつか伏線回収が起きてすべてが面白い一点で昇華していくのはやはり面白い。
9/25(金)
数物セミナー Advanced 9th から帰ってきたので振り返る。
リレーセミナーでは、数え上げ幾何学班としてオムニバス形式のゼミを行った。私は先月の北大での勉強会で扱った Gromov-Witten 理論から量子コホモロジー、Frobenius 多様体のあたりを、有理曲線の数え上げという軸の周りにまとめて話した。ノートは ノート類 に置いてある。発表自体はシンプレクティック幾何パートを全省略したものの、3日目いっぱいかけさせてもらった。いろいろミスなどもあったが面白そうに聞いていただき感謝しかない。
そういえば班にはもうひとり数論の方がいらっしゃるはずだったのだが、事前ゼミもまだ行わないうちに辞退されてしまった。休眠乍? の数え上げの話、聞きたかった...。結果的によく見知った方々とのゼミになってしまったが、前提知識について相互にある程度の共通認識がある中でお互いリラックスして喋ることができて、よかったと思うことにする。他の班員の発表は、ひとりが Adeel Khan のレクチャーノート を使った infinity-stack theory(最終的には DAG 的な formalism に辿り着くはずなので、数え上げ幾何学で間違いない)、もうひとりが Donaldson-Thomas 理論の導入だった。ものすごく勉強になった。infinity 的な議論ってふつうにありえなくてありえない。聞いているだけなのに何度も心が折れた。
高校でパソコン甲子園に出たときに会津若松には行ったことがあったものの、郡山は初めてだった。涼しいし、朝/夕の集いは猪苗代湖を望む高台からだったので気分が良かった。御殿場の合宿所は目の前が富士山だから、これも良い眺めではあるが、静岡県民にとっては特別感がイマイチ薄い。ちょうど夏の終わりで、刈り入れている田んぼもあった。台風の関係か少し曇りがちだったのは残念だったが、最終日にお散歩したときにはよく晴れていた。
休み時間にはドッジボールをした。本当に何年ぶりか分からない。はしゃぎすぎてすぐダウンしたし、しばらく肩が筋肉痛だった。もうすこし体力をつけなければならない...。次回以降はサッカーとかもできたらいいな。
大学のテストが終わった7月末にシンプレクティック幾何を勉強し始めてから、思えば夏休みはただずっとミラーの A-model 側を追いかけていた。まだ VHS や Floer ホモロジー、深谷圏には辿り着けていないが、ここらで B-model 側を学び始めた方が見通しが良くなりそう。すると複素構造の変形、あるいはより広範に、変形理論について勉強する必要がある。cotangent complex や完全障害理論というのは要するに古典的な変形・障害理論の derived な扱いなわけだから、古典的なそれを勉強しておくことは導来的・ infinity 的な理論への、むしろ真っ当な前段階だろうとは思う。または数理物理を勉強してみるという選択肢もある。まだ B3 なので、研究に直に生きそうな分野でなくとも、視野を広げられそうな分野であれば勉強する価値があるとは思う。いまのところ、しばらく今借りている本(そろそろ貸出延長が限界!)の読めていない場所を読んで慣性でミラーまわりの勉強をした後、10月に手元の本を一新して、変形理論と数理物理を勉強し始めてみようと思う。
いろいろ本をおすすめしてもらった。複素/Kähler モジュライについては Cox-Katz にも書いてあるが、あれはミラーに絞りすぎていて初読テキストではなさそう。せっかく時間に余裕があるので変形理論自体を扱えるようになりたい。複素構造の変形と周期 とか、あとは洋書でいろいろあるので読んでみる。これの後半には共形場理論が数学的に書いてある。またミラーの数理物理については例えば Hori et al. の物理パートにはいろいろ書いてあるが、せっかく時間に余裕があるので数理物理の言葉自体にひととおり目を通しておきたい。弦理論から逆算すると場の量子論、量子力学/解析力学/相対論が必要らしいから、おすすめしてもらったテキストを眺めつつこれから自分がどうしていくか決める。自由に勉強できるのもこの期がラストだろうから、後悔しないようにしたい。
9/30(水)
ここ最近は変形理論を勉強している。本当は発表に向けて A-model の variation of Hodge structure (VHS, 変動 Hodge 構造?) について勉強しようと思っていたのだが、VHS のおおもとは複素構造の変形の解析にあるようだった。これによって、私がいま勉強しようとしていることのうち数理物理以外(VHS、B-model の色々、cotangent complex)のすべての根元に(複素構造の)変形理論があると分かったので勉強し始めていた。
変形理論そのものについては Alper の
を読んでいる。かなり良い! 古典的な変形理論の一般論における問題意識と定式化、そして解答となる定理がいい感じに配置されていて、具体的な変形問題- 射影スキーム $X$ の閉部分スキームの変形:$\mathrm{Hilb}^P(X)$
- 種数 $g$ の滑らかな曲線の変形:$\mathscr{M}_g$
- 滑らかな曲線 $C$ 上のベクトル束の変形:$\mathcal{Bun}_C$
ミラーに直接関わってくるのは複素構造の変形理論で、これについては小平先生の
を読んでいる。こっちも本当に良い本でびっくりした。この本には英訳前の「複素多様体論」という本があるらしいのだが、大学の図書館に行って借りるのが面倒だったので結局英語版の pdf を読んでいる。複素多様体の基礎から始めて、開発者ならではの気持ち解説を挟みながら複素構造の変形がどう分類されどう実現されるか解説している本で、かなり解析寄りではあるが、めちゃくちゃ分かりやすい。Spencer と共同で変形理論を開発している当時の、観察と計算から一般法則を予測して証明する営みが生き生きと描かれていて物語としても非常に読みごたえがある。付録は100ページくらいかけて楕円型偏微分作用素の理論を解説してくれていてこれもありがたい。開発者ならではのスローガン的な哲学もいろいろ書いてあって勉強になる。とにかくいい本だと思う!複素構造の変形理論というのはおおまかには、複素多様体の族において複素構造がどの程度変わりうるか、という問題を扱う。適当な条件のもとそのような族では微分構造は変わらない(cf. Ehresmann's lemma)。複素多様体 $M_0$ の複素構造の変形を調べたいとする。$B$ でパラメータ付けられた複素多様体の族 $M\to B$ があり、点 $0\in B$ 上のファイバーが $M_0$ になっているとする。このとき、$v\in T_0B$ ごとに「$v$ 方向に $M$ の複素構造がどの程度変わっているか」という、いわば複素構造の微分係数 $\theta(v)$ を考えたい。これはデータを良く観察すると $M_0$ の接束 $\Theta$ の Čech コサイクルとなり $H^1(M_0,\Theta)$ の元を定める。このようにして、パラメータの変化方向を受け取ってその方向に複素構造がどのくらい変化しているかを返す小平-Spencer 写像 $$\theta:T_0B\to H^1(M_0,\Theta)$$ が得られる。変形からコサイクルが得られるからといって、逆は期待できないから、これは一般には単射でも全射でもない。しかしいろいろ $M_0$ を変えて試してみると、どうやら $M_0$ ごとに各論的に計算される複素構造の変形空間の次元はピッタリ $H^1(M_0,\Theta)$ の次元に一致するようであり、よってありうる変形方向がちょうど $H^1(M_0,\Theta)$ の元と一対一対応しているように見える、これは奇妙だ────みたいにして話が進んでいく。面白い。
今日は中学の友人と飲みに行く予定があったのだが、ひとりがインフルにかかってしまいおじゃんになった。もうインフルが流行っているのか...
ギターは少しずつコードが弾けるようになってきたが、アンプを通さなくても結構音がでかいのが気になる。昼にしか弾かないようにしているが、たとえば隣の部屋の人が夜勤だったらどうしようとか考えてしまう。
プロセカを久しぶりに開いてみた。ありがとう。