2026年6月
6/30(火)
講究 XB を聴いた。ひとつめは聞いたことのある話もあったが、数え上げ幾何の奥深さに改めてワクワクした。ふたつめは先生自身の最近の研究内容をモチベーションを交えて解説して下さり流れが分かりやすかった。どちらも実効的な内容理解には至っていないが、ともかく本当に面白かった。
コモンルームにあったパズルが面白かった。
6/29(月)
May 代トポゼミの準備をしていた。orientation について多少理解が深まった気がするが、まだモヤモヤが消えない。May での定義はどう見ても層論的に整理できそうで、実際池先生が講義で仰っていた orientation sheaf というのが私の求めているものらしいのだが、調べてまとめるだけの時間は現状ないのだった。
6/28(日)
日帰りで地元に戻り法事に参加した。法話がとても面白かった。高校で倫理を取らなかったので、思想の話を聞くと毎度毎度新鮮に面白いなぁと思ってしまう。教養のときにそういう講義を取っておけばよかったなぁと少し思った。
再び Stacks and Moduli の stable curve の章の話だが、hard exercise として、rational tail や rational bridge(ある性質を満たす既約成分)の nodal な contraction が存在することを示せというものがあった。下にヒントが書いてあるのだが、Castelnuovo の contraction theorem はともかく、極小モデルプログラムにおける定理を使えとか、log canonical だから nodal に収縮できるんですよとか書いてあって > < という顔になってしまった。双有理力の不足でこれからも苦労することになりそうだ。
6/26(金)
朝にワールドカップのスウェーデン戦を見てから少し仮眠を取り、午後から Kavli IPMU のオープンハウスに参加した。柏キャンパスは緑が多く静かなキャンパスという印象だった。建物内も非常に良かった。院生室のような個人スペースや、コモンルームを極限まで開放的にしたような吹き抜けの空間、ガラス張りのセミナー室など、ぼくの考えたさいきょうの研究所といった雰囲気だった。いろいろ考えたこと感じたこと話したこと聞いたことがあるが、キリがなくなってしまいそうなので、書き下すのはあきらめる。どうせ私は来年も行くのだし。ともかくとても魅力的な空間だった。
Fulton-Pandharipande と並行して Stacks and Moduli の stable curve の章をちびちび読み進めているのだが、nodal family の étale local な様子についての定理の証明に知らない概念が大量に出てきて厳しかった。Popescu's theorem とその系である Artin approximation というのが、そのような文脈では基本的かつ強力な道具となっているようだが、étale 近傍でものを考えるということを今までしてこなかったので聞いたこともなかったしなにも分からなかった。一旦認めて進むことにする。
6/25(木)
Li を読んでいたら午前の Fourier-Mukai のゼミに寝坊してしまった。論文の証明自体にそこまで行間があるわけではないが、外の文献に投げられている命題をこの論文に適用するというときに、しばしば私にとっては自明でない議論が必要になる。論文の内容やアイデアを理解する上ではあまり埋める必要がなさそうな部分も、今回はちょっとしっかり埋めてみようと思っている。それは、自分の理解の確認でもあるし、非自明に見える部分を基点にして自分の勉強を広げてみようと思っているからでもある。例えば存在性と性質を認めてしまえば読み進められるときも、その対象に対していろいろ具体的な計算をしてみると、自分がいかに交叉を適当に考えていたかが分かったりする。とくに "numerical" がつく概念は触れる場所がほぼ無かったので今回いい勉強になっている。
FM の方は、Fourier-Mukai 関手を K 群や Chow 群のレベルの関手に落として整合性を見ていく中で Chern 類(Chern 指標)、Todd 類、GRR、Mukai ベクトルを扱う節だった。もっともこの本では、解析的位相を入れ直した後 cycle map で通常の有理係数コホモロジー群だと思うことで、交叉積ではなくカップ積で全ての議論を行うのだが。複素数体上だとなんでも許されてしまってずるい気がする! 節を通してやりたいことは分かりやすいのだが、素直に定義した関手はそのままでは思ったよりも Fourier-Mukai 関手に関して整合してくれないので、接束の Todd 類の平方根のような非自明なひねりを加えて準同型性と可換性を持つようにしてやらないといけない。K 群と Chow 群(コホモロジー群)を整合させる写像が Mukai ベクトルである。
一ヵ所良く分からない場所でゼミが停止したのだが、よく問題を整理することができれば、コホモロジー環のカップ積あるいは同じことだが非特異多様体での Chow 環の交叉積の定義のされ方を知っていればそれはそうとなるような命題になっていた(実際最終的には Fulton に全く同じ式があり Chow 環側で決着をみた)。私が代数トポロジー未熟人間なので、通常の意味でのコホモロジーにおける押し出しの事情を知らず、Chow 群の方の Gysin map でしか議論をすることができなかったが、おそらくカップ積の定義も同じなのでトポロジーでもだいたいおなじことが成り立っているんだろうなと信じている。先輩の Fulton のゼミを聴講していなかったら完全に手詰まりであったし、カップ積の話や幾何的直観は別で勉強していた代トポの勉強が生きたのがなんとなく嬉しかった。
続きは私が担当するのだが、なんと Hodge 理論という言葉が見える。とはいってもコホモロジーの二重次数分解を取るだけなのだが、ちょっとなんでもありすぎて恐ろしい。ずるい気がする! 一応これにも一般の体上で働く対応物として Hochshild コホモロジーというものがある。できればこっちで働かせてほしいが、Chow 群レベルで扱いにくいのであればまぁ免罪符だけ用意して複素特有の理論を使うのも仕方がないのかなぁという気がする。
その後は May 代トポのゼミがあった。公理的に定義されたコホモロジー理論に関して各種性質を確認し、空間の昇鎖に関してホモロジーでうまくいっていた場所がちょっとズレることを確認した。そこからは発表者が、Borsuk-Ulam の定理の組み合わせ論への応用を話してくれてこれがもう滅茶苦茶面白かった。球面と連続写像に関する命題なので、いわれてみればもともとそこまでトポトポしている命題ではないのだが、全く関係が見えないグラフの彩色数を決定できるというのは本当に意味が分からない。謎構成にあり得ない ad-hoc 議論、突然出てくる幾何的対象に天才同一視、そして最後にすべての伏線回収、とすすむ組み合わせ議論特有の激オモロ爆アゲ超ドーパミン証明を久しぶりに味わって圧倒されてしまった。一般と抽象を追究する数学というのはある意味で自明を追究する数学であり、真に非自明な数学というのはその対極にあるこういう数学を指すのかもしれない。面白かった。
6/24(水)
今日は講究 XB を聞きに昼休みから大学に行った。ついでに複素解析演習の発表ノルマも終わらせてしまおうと思って UTOL を見たら、ちょうど純層論的な命題を含む演習問題が配布されたところでありがたかった。講義は最近は複素幾何の方向に行っており、層係数コホモロジーを扱うために圏の定義から Abel 圏の導来関手までを今回の授業で導入したらしい。コホモロジーをやるだけなら一般の導来関手を導入する必要はないように思えるが、どのような計画なのだろうか。演習問題にあった「層の射が同型 $\Leftrightarrow$ 各 stalk で同型」という命題は、おそらく今までに3つくらいのゼミで繰り返し発表を担当していて、描く図式も証明の順序も魂に染みついており、気合を入れて板書を作り始めた(その割には手間取ったが)。基本概念や記法を軽く remark したり(講義ではまだ層を定義していない)、説明しながら diagram chase をするための余白を空けたりして完璧な板書が完成したのだが、時間切れになり、結局次回に持ち越しとなった。解析系の議論が本当に苦手かつ嫌いで、なるべく勉強時間を割きたくないので、なんとしてもこの問題を発表してノルマ完遂としたい。テストはどうにもならないのでどうにかするしかないが、果たしてどうにかなるのだろうか...
講究 XB のタイトルは「特異点」と「絡み目と3次元多様体の量子不変量」という激アツタイトルふたつだったので、なんとしても聞きたかったのだが、あまりにもあまりにもな結果であった。詳しくは述べないが数学者の(あまり良くはない)自由エピソード2選が今日いちにちでぶっちぎりの更新となった。
輪講テキストを眺めた。ぱっと見絶対これという本はなかったが、1年の未熟な時期に背伸びして挑戦して苦戦したわりにほぼほぼ内容を忘却しており後半は読めていない Serre, Linear Representations of Finite Groups を読み直すのはかなりアリかなぁと思っている。表現論というのが進路においてどの程度必要なのかは分からないが、まぁ進路にドンピシャみたいな本はそれこそなかったので、あのころの無念を晴らすリベンジ輪講をすることになるような気がする。この本は1年の夏休みに駒場理数サークルの合宿で読んだのだが、大苦戦し先輩方にいろいろ教えていただいた。一緒に参加していた同級生に、帰り道で「強くなりたいなぁ」みたいなことをずっと言っていたのを覚えている。強くなったかはともかく経験は積んできたと思うので、さて、どうなるだろう。
別の選択肢としては、言葉としていつか活きるかもしれない関数解析をやるだとか、物理寄りっぽいことに手を出してみるだとか、あるいは本がパッとしなくてもそれをさっさと終わらせて別の興味ある本に突入するだとか、いろいろやりようはある気がする。まだ期間はあるので周りの様子も見ながら考えてみる。
6/23(火)
21歳になった。20と21では響きがかなり違う。来年のこの時期はおそらくもう院に向けて動き出しているだろう。好きな数学をできることに感謝しつつ、この一年を丁寧に過ごしていきたい。
あい君のゼミを聴講した。コホモロジー早見表が思ったより好評だったのが驚きだった。Castelnuovo-Mumford regularity については Huybrechts-Lehn で読んでいた(こちらでは Mumford-Castelnuovo の順!)のだが、実際そのとき私は早見表で図示して regularity を理解していたので、今回説明に採用してくれて嬉しかった。Huy-Lehn でも Hilbert 多項式を固定したときの regularity の有界性みたいな定理はあった(slope のある種の有界性に使う)が証明が外に投げられていたのを追っていないので結局良く分かっていない。大事そうだということしか分かっておらず、層に対するどんな数値なのかという直観がまだ生えていない。それをいったら Hilbert 多項式にも直観は生えていないのだが...
Grassmann 多様体は単に Quot スキームの一例として構成していたと思っていたのだが、発表を聞いた感じでは一般の Quot スキームは(Hilbert 多項式ごとに分解した後)Grassmann 多様体に埋め込むことで表現可能性が示されるということだった。技術的にそう簡単にいかないというのは発表を聞いて十二分に思い知ったが、Hilbert 多項式を固定することで出る Castelnuovo-Mumford regularity の有界性というのがだいたい「一様に大域生成化できる」という性質だと思うと、全射性とかが大域切断でだいたい議論できて、そうすると線形代数の商モジュライつまり Grassmann 多様体に帰着されるという物語性だと思うことにした。それにしてもほぼ毎週のペースでこのクオリティの発表をして下さるのは本当に凄いしありがたい。
その後モジュラー形式のゼミで発表した。
- 1.4 Complex tori as elliptic curves
- 1.5 Modular curves and moduli spaces
6/21(日)
しばらくいろいろあって数学に手を付けられていなかった(家にいないと腰を据えた数学がどうしてもできない!)が、合間にちまちま Fulton, Pandharipande の Notes on stable maps and quantum cohomology を読み進めていた。Stacks and Moduli で該当箇所を抑えながら読んでいった方がよさそうだった。夏休みは勉強会も Adv も Gromov-Witten 周辺の勉強をすることになりそうだ。それまでにシンプレクティック幾何の言葉にも最低限触れておきたいし、すべきことがたくさんある。ほんとうは Bădescu も読み進めたいし MMP 方向ももうちょっと勉強したくて借りた本がいくつかあったのだが、一旦後回しになりそうだ。
ワールドカップが熱い。
6/18(木)
May 代トポのゼミがあった。コホモロジー論パートに入ったのだが、発表者が障害理論について別の教科書から内容を補充してくれてとても面白かった。写像の拡張問題に対する「障害」が基本群係数のコホモロジー類で測られるというのはびっくりだったし、特性類をその枠組みで捉えると意味論が非常によくわかって嬉しい気持ちになった。代数幾何では Chern 類、Euler 類、Todd 類くらいしか見ないものの、そのほかの実幾何での特性類も興味深くて面白いし、それぞれの性質や応用に加え、思想を抜き出して身につけていきたいと思う。
川又先生の代数多様体論という本を読んでいた。代数多様体論というか「MMP への最短経路」みたいな本で、さすがにぱぱっと読み切れる本ではない。特異点まわりはおそらく手を動かして計算してようやくわかってくるもののようなので、流し読みしても意味のある勉強にはならなさそうだった。しばらくは特異点論が必要になるものを主軸に勉強することはなさそうだが、いつか McKay 周辺を勉強したいと思っているので、しなければならない勉強がひと段落したら特異点の計算に魂を捧げる期間をつくりたいなぁと思っている。
6/17(水)
しばらく掛かり切りだった向井モジュライがひと段落したので、図書館にそろそろ返したい 「トーリック多様体入門」 を通読した。以前これまた通読し単発発表会も行った「結び目と量子群」と同シリーズ、朝倉書店「すうがくの風景」の一冊なのだが、おそらくこのシリーズを貫いて前提知識が極力少なく抑えられていて、王道入門を目指すというよりも面白いトピックへの最短経路を提示するという雰囲気なのだと思う。既習範囲を飛ばし、技術的な部分をスピード感を持って確認し、全体の物語性を見失わないまま面白い部分に踏み込んでじっくり味わうことのできる、本当にありがたいシリーズである。
この本の構成はとても面白く、多様体の諸概念を全て「扇」という組み合わせ論的対象の概念として定義し諸々を議論したあと、最後の章で扇から多様体を作る対応が示されることで、実は今まで証明してきた扇の命題から多様体側の命題が得られるという順序を取っている。前書き曰く、代数幾何の教科書を読む莫大な労力を省略し、技術的な混乱を最後までとっておいて幾何を行うという意図らしい。いろいろ言いたいことはあるのだが、ともかく本当にいい本だった。いずれ読書録か、もしくはそれこそ単発ゼミのようなものをして自分の理解をもうすこし深めたい。
トーリック多様体というのは、扱える範囲が限られるとはいえ、どうやら勉強すべき対象のようだった(先輩も以前勉強していたと仰っていたし)。今回読んだ範囲でも、中井-Moishezon の ampleness 判定法や Zariski の主定理、Stein 分解など、Ha の3章後半~5章相当(という言い方は変だが)の定理たちに加え、特異点解消なども平易に扱われていた。私は常々代数幾何をやるうえで幾何的直観不足に苦しんでいるので、思考のショートカットというか、「直観的な」考察手数の多さを常に欲している(複素幾何はそのために勉強し始めて、実際相当助けになっている)。今回読んだ範囲だけでもトーリック多様体においては標準因子や曲線の種数、blow up や特異点解消を明快な組み合わせ論的対象として扱うことができるという話があった。本格的に勉強するなら、以前教えてもらって知っている文献としては以下の2つがある。交叉理論やコホモロジー論がどのように展開できるのか、さすがに面白そうだが、時間が足りない!
6/16(火)
「学生発表会」と題して、最近勉強した内容を東大 B3 の3人が順に発表した。目次を再掲する。
- 代数多様体と安定ベクトル束のモジュライ
- 多重ゼータ値 〜無限級数と周期の数論〜
- Chern-Weil 理論 〜微分形式の代数構造〜
もともとはごく身内で「数物セミナー Advanced で勉強した内容を相互発表する会」という形で計画していたものだが、学科内の友人も呼び、日程が合わず延期し、それぞれ新しい内容を勉強して発表したい内容が新しくでき、...となっていく中で、じゃあクローズドに行わなくてもいいのでは? と考えるようになった(実際、合宿で勉強した内容を発表した人は今回一人もいない)。東工大での集中講義の際に、ある先生が学生時に学年をまたいだ発表会をしていたという話を聞き、継続して行っていく会の第1回ということにできたらいいなとも考え、最終的にこのような形態にまとまったのは一週間前くらいだった。
とはいいつつ、単に「せっかく時間をかけて準備して凝った発表をするなら多くの方に聞いてほしかった」というわがままであった。先述の先生は発表会以前は音楽のサークル活動などもありあまり数学数学という感じではなかったらしいのだが、発表会で刺激を受けて現在の分野にハマったと話されていたので、そういったことが起きたらいいな~、と思っていたのも大きい。実際今回は学科内から数人聞きに来てくれた方がいてうれしかった。クローズドな発表会というのも、発表者との相互交流が発生する意味で好きなのだが(「結び目と量子群」では個人的にまさにこれが良かった)、個人的に今回の発表を見に来てほしかった学外の方が居たり、できれば後輩にも来てほしかったりと色々あって欲を出した。
数物セミナーや都数の談話会や総会といった、同様に学生が発表する機会は存在するので、それで良くないかと言われればその通りだとおもっている。最近はドーナツ会というのが学生発表の場としてあるらしく、参加してみたいと思っている。ただ私が個人的に話を聞いてほしかったひとや発表してほしかったひとは必ずしもそれらに所属していなかったし、学科内で数学に興味がある人を発掘したいという気持ちがあり、結局自分たちでセミナールームを取って開くことにした。こういう取り組みが分散するのはよくないことだと思うのだが、どのように取り組むにしても限界はあり、自分が参加したいイベントに参加することしかできない。
結果的には、いろいろうまくいったと思う。私は支離滅裂な発表をしただけだが、後ろ2人の発表があまりにも神懸っていた。私自身、資料をまとめる中で滅茶苦茶良い勉強になったし、聞いた発表もとても面白かった。このふたり興味が近いな~と思っていたふたりが交流していたり、別の談話会の話が発生したり、発表の合間にも良い話がいろいろあった。今回は代数幾何、数論、微分幾何とうまく分かれていたが、解析や表現論で発表して下さりそうな方もいるので、また第二回ができたらいいなと思う。発表会というのはそれ自体に自我の存在しない「現象」であるべきだと思っているので、できれば、発表したい人が発表し聞きたい人が集まる「場」として、(テセウスの)「船」として続いてほしい。
6/12(金)
午後から先輩の講究を聴いた。代数幾何難しすぎる。一般論パートは丁寧に書かれているし先輩の発表も分かりやすいので楽しめている(今日の交叉積の定義や refined Gysin の再定義なんかは素人目にも面白かった)のだが、先生の一言で唐突に始まるデス口頭試問に打ちのめされて、毎回ワテに代数幾何は無理じゃ > < との意を新たにしている。試問のパターンはいくつかあり、
- 成り立つ一般的事実に対して、例を挙げて計算して確かめるよう言う
- より広いクラスで成り立たないのか聞く
- 成り立たないならその反例や説明を求める
バイトまでの空き時間に Katz の数え上げ幾何学と弦理論を読み進めていたが、そもそもが数学書然としておらず語り口調で論理の流れが散らばっていて読みにくいのに加え、終盤の物理パートとそれを使った数え上げのお気持ち解説パートが本当に分からなかった。どれだけ雰囲気本でもお気持ちくらいは拾い上げられるだろうと思って読み始めたのだが、自分の抽象的理解力に関して見通しが甘かったようだ。もう少し色々分かってから読み直したい、とりあえず差し迫ったものがなくなり次第 Gromov-Witten の勉強を始めようと思う。
6/11(木)
この日記を読んでいる人にはもう告知していると思うが、来週の火曜日 6/16 に数理棟の370セミナー室にて学生発表会をする。
- 10:00~11:30 代数多様体と安定ベクトル束のモジュライ
- 11:30~13:00 多重ゼータ値 〜無限級数と周期の数論〜
- 13:30~15:00 Chern-Weil 理論 〜微分形式の代数構造〜
午前中には早稲田に行って FM のゼミをした。今回は発表担当ではなかったが、ようやく標題 Fourier-Mukai transform が定義されて嬉しかった。提示されている Example が何を意図しているのかイマイチ分からないという一点を除き激アツ章だった。忠実充満完全関手は全て Fourier-Mukai 変換であるという定理はあまりに強いことを言っているし証明も省略されている。見た目の通り証明は結構大変なようだったが、いつか時間があったら追ってみたいものだ。これからも色々新しいことを学べそうで楽しみに思っている。
午後は大学に戻り、May のゼミ(特異ホモロジー論)をした。こっちは発表担当で、ここしばらくかなり準備に苦しんでいたのでいちおう発表を終わらせることができてよかった。単体近似や局所自明化など、位相空間での細かい議論で何か所か追い切っていない、追い切れていない箇所がある。そのあたりの詳細は ファイバー束とホモトピー という本に色々書いてあるらしく、私はこれを読むべきかもしれない。
夜には Akari さんの condensed math についてのゼミを聴いた。condensed だと何ができるようになるのかという点を丁寧に説明してくれていてありがたかった。圏の大きさの議論は未だに全く分からないのだが...なにかしら勉強した方がいいのか、それとも障害としてぶち当たるまで目を背け続けて良いタイプなのか、後者だと信じている。
学生発表会の準備は今から始める。いちおう通読した本の内容を話すから何とかなると信じているが、自分の好み過ぎてあまり一般的には面白くないかもしれない。あとどうしても代数多様体の上で話を展開しなければならないから、学科内向けだといちおうその定義とかを述べた方がよいのだが、代数多様体入門からやっているようだと喋りたいことに到底間に合わない。たとえば Zariski 位相を入れるだとか貼り合わせるだとかはともかく、層の言葉だとか、座標環と図形の等価性だとか、群作用が座標環に入れる余作用だとか、いかんせん準備しなければならない概念が多すぎる。「最近勉強したこと」という体なので自分の喋りたいように喋るというのも考えたが、あまりにも寂しすぎる。どちらにせよ最初は前提知識無しで聴けるようなイントロから始めるべきだとは思っているので、いろいろ考えている。
6/10(水)
講究XBの Gromov-Witten Theory を聴いた。個人的にはまさに興味のある部分だったのと、夏休みに参加する勉強会への見通しを立てる意味でも有意義だった。おそらくシンプレクティック幾何というより、まずは必要な幾何を回収しながら直線で Gromov-Witten を学んだほうがよさそうなのと、モジュライをしっかりやる必要がありそうだった。
そのあと便利くんに会ったので少しだけこのあたりの話を振ったところ、直pdf注意 を見つけて、彼の知識の方向からいろいろ教えてもらった。数学って広すぎて本当に果てしない。数論はまだ物理から遠いほうだと思っていたのだが、話によると結構接続があるらしく、もうじゃあ全て物理であるという結論に至った。
その後ますらぼの打ち上げに参加した。めちゃくちゃ楽しかった! 感情と人とのかかわりについて語るのは事実と数学について語るよりずっと難しく、日記は数学一色になってしまう。ともかく、先輩方のことはもっと頼ってもっといろいろ話を聞いていこうと思った。
6/9(火)
あい君のゼミを聴講した。Grassmann 関手の表現可能性ということで、ちょうど聞きたい話だったのでありがたく受け身で聴かせていただいた。ちなみにこのゼミで取っているノートは Goodnotes 内では「ゼミノート」ではなく「講義ノート」フォルダに入っている。古典的な構成と射影性の証明は一応追ったつもりでいたが、聞き手側に回ると岡目八目といったところで色々気づきを得られて面白かった。Prücker 関係式の式の形を眺めるだけでもいろいろ気付きがあったし、代数群の等質空間が準射影的になることの証明との類似点もあった。後者について簡易的に書く。準射影性の証明はかなり面白いと思っているのでそのうちまとめたいのだが。
Humphreys, Linear Algebraic Groupsの Chapter IV Homogeneous space(等質空間)では、ひとつめの節で等質空間に準射影多様体の構造が入り、ふたつめの節で実際に商の普遍性を満たすことが示される。ここからはひとつめの節に書いてある話をする。等質空間というのは位相空間レベルでは単に商位相を入れるしかないから、それに代数多様体の構造が入るというのが非自明で示すべきことである。これについてこの本はとても見通し良く書いてくれている。
まず Chevalley の定理という名前(!)で、「任意の閉部分代数群 $H\subset G$ は(その Lie 代数も含めて)ある線形表現 $G\to\mathrm{GL(V)}$ の1次元部分空間の固定部分群として実現される」みたいな定理が示される。これの証明において目的の表現は、まず適当な $d$ 部分空間の固定部分群として実現できることが分かった後に、その表現の $d$ 次外積を取ることで固定部分群を1次元に潰すという流れで構成される。
さて、$H\subset G$ を閉部分代数群とし、Chevalley の定理によって対応する線形表現 $G\to\mathrm{GL}(V)$ と1次元部分空間 $L\subset V$ を取ってくる。すると、$H$ が $V$ への作用において $L$ の固定部分群になっているということは、射影化することで、$H$ は $\mathbb{P}(V)$ への作用において1点 $[L]$ の固定部分群となっているのである! 一般的な定理により代数群の作用による一点の軌道は局所閉集合となるから、 $\mathbb{P}(V)$ 内での $[L]$ の軌道を $X$ とすると、これは準射影多様体かつ $G$-集合として $G/H$ に同型になっているのである。普遍性を満たすこと、すなわち代数多様体の構造がこれで正しいという保証は別で示す必要があるが、一旦構成はこれで完了となる。
なにが言いたいかといえば、なにか射影空間の点を用意したい時に、でかい線形空間の部分線形空間を対応させる → 外積を取って1次元に潰す → 射影化して1点にする という操作ができるということである。今回の Grassmann 多様体の射影性の証明においては、Prücker 埋め込みはまさにこの構成である! すなわち、Grassmann 多様体の「点」というのは単に固定次元部分線形空間のことであるから、この構成をそのまま使えば射影空間への埋め込みが構成できているのである。Grassmann 多様体というのはある種の商多様体だから、明示的な系ではないにしろテクが似るのはある種自然なのだが、それでも自分が勉強したことがもう一度見えるときというのはいつもうれしいものだなぁと思った。各々の数学から、普遍的なテクや普遍的な問題意識を抜き出せるようにしていきたい。
Grassmann 関手の表現可能性については、技術的な部分はまだ咀嚼しきれていないが、いちおう「なぜ表現可能であるべきなのか」については、多少理解できたと思う。
その後モジュラー形式のゼミに参加した。格子の議論をしただけでイマイチ数論っぽいことはできなかった気がするが、ともかく、格子の対称性(虚数乗法)が数論的な性質にたしかに影響を及ぼしそうだなという雰囲気を得られたのは良かった。少し行間があったが、ミニクイズとしてちょうどいいので述べておく。
「$C_1,\cdots,C_n$ を有限巡回群、$K\subset C_1\times\cdots\times C_n$ をその直積の部分群とするとき、$K$ は $n$ 個以下の巡回群の直積として書ける」
有限群論でよくある位数の整除関係の議論が苦手なので、私は $\mathbb{Z}$ 加群論だと思って示した。
6/8(月)
Li の論文 を読んでいた。証明は楕円曲線 $E$ の $n$ 個直積 $E^n$ 上に入る stability conditon の族 $\sigma^{a,b}$ をまず考えたうえで、そのパラメータ $a,b$ をうまく取り換えながら stability condition の押し出しや引き戻しを行い射影多様体上まで stability condition を運んでいくという流れなので、$a,b$ を取り換えたときに $\sigma^{a,b}$ がどう変化するのか実感を持って把握する必要があると感じ、いくつか計算をしていた。ともかく一旦論理的な非自明パートは絞れてきたので、もう少しまとめられたら次は証明が投げられている文献のうちどれに進むべきか考える必要がある。
シンプレクティック幾何や Gromov-Witten を勉強するのにおすすめの文献はありますかと最近あらゆる方に聞いて回っているのだが、教えていただいた文献をメモしておく。
- Silva. Lectures on Symplectic Geometry(直リンク) 以前も書いたもので、講究XAのテキストとして挙げられている。
- Cox , Katz. Mirror Symmetry and Algebraic Geometry 複数の方から勧めていただいた。
- Siebert. Symplectic Gromov-Witten invariants(直リンク) 冒頭の survey が良いらしい。短くまとまって仮想基本類の構成や Gromov-Witten 不変量の話に入っているように見える。
- McDuff, Salamon. J-holomorphic Curves and Quantum Cohomology(直リンク) イントロに量子コホモロジーも含めていろいろまとめが書いてあったのだけは見た。Gromov-Witten 不変量の教科書。
- Fulton, Pandharipande. Notes on stable maps and quantum cohomology stable map についての文献。
- 深谷賢治. シンプレクティック幾何学 シンプルに、シンプレクティック幾何の教科書。
6/7(日)
May ゼミの準備をしていた。今回は16章、特異ホモロジー論を担当する。いちおう Hatcher で雰囲気だけは追ったことがあったがずっと苦手意識があるし、Eilenberg-MacLane 空間のところはしっかりやっておきたかったのでありがたい。この本は明示的な定義から始めて途中から simplicial な扱いに切り替え圏論的特性を述べるという流れだが、私の好みで初めから simplicial な扱いで圏論的に各概念を定義し、明示式は定義の unfold という形で与えることにした。当然非自明な命題が自明になるわけではないが、simplicial な一般的事実が使えるだけで随分見通しが良くなるものだ。いつもは Hatcher をドバドバ参考にするのだが、今回は Kerodon やら nLab を眺めている時間の方が長い。構成の関手性であったり随伴関係であったり、結論が圏論的なものはたいてい圏論の中で完結させられたと思う。
最近、勉強したい内容すべての五歩先に数理物理が居る。ピュアマスを気取っていたはずなのだが、これは何だろうか。導来圏を勉強し始めた時点でこうなる運命だったのかもしれない。もしくはどの分野の先にも数理物理が居るのかもしれない。まずシンプレクティック幾何を勉強する必要がありそうだが、私にできるのだろうか...
6/5(金)
昼前から先輩の講究を聴講した。ファイバー積を取るときに起きる Gysin pullback のズレが、法束のズレ(excess normal bundle)の Euler 類であるという excess intersection formula は嬉しいことを言っていたし、また射の分解を取って片側を単に pullback にしてしまうことで Gysin 射を refine できるというのはいやまったくありがとう。先輩からその後聞いた bivariant intersection も面白かったし、教えてもらった
はめちゃくちゃ良いことを言っていそうだった。受け売りだが、交叉というのが本質的に derived な場所に居るのであれば、それは素敵なことだと思う。そのあとはワークショップの講演を聞いた。曲線のモジュライのコホモロジーというテーマで、基本的な結果が紹介された後、講演者の最近の結果が紹介されたのだが、それがとても面白かった。シンプルに幾何的な話かなぁと思っていたら、突然 Betti 数の分布が正規分布に従うという話になり、また Poincaré 多項式が実根しか持たないという話にもなり、そんな方向性が! とびっくりし続けていた。確率論や PDE のテクが使われたということ、それが AI の提案であったということも興味深かった。特徴数がたくさん出てきて数値計算できるような場合、それの分布などを調べるのもひとつの方向性なのかぁと勉強になった。
6/4(木)
今日はまず午前から昼をまたいで Fourier-Mukai の発表をした。結局4章まで発表を終わらせた。ノートは ノート一覧 に置いた。ようやく次がタイトル回収、Fourier-Mukai 変換である!
それから J. P. May, A Concise Course in Algebraic Topology のゼミがあり、ホモロジー論の公理的な扱いが確立された。久しぶりだったのでいろいろ完全に忘れており、思い出しながらになってしまった。次は特異ホモロジーで私が発表担当である、週末はこれの準備に費やされそうだ。
それから大講義室で先日から行われていた代数幾何学ミニワークショップに最後のみ参加した。大内先生には講義後少しだけお話を聞きに伺った。
夜には Huybrechts の別の著書、つまり Complex Geometry のゼミがあった。数物セミナーの事後ゼミとして続いている。とても面白かったのだが、微分幾何的な計算に慣れておらず、Newlander-Nirenberg の定理のあたりにまだ馴染めていない。概複素構造が複素構造から誘導される必要十分条件が可積分性で与えられるというのは強いなぁとは思うが、なぜそうなるのかまだつかめていない。Frobenius の定理を理解するのが大事らしいが、Wikipedia の形と今回の形の整合性が分かっていない。微分幾何難しい......
次の節もかなり進んで、Kähler が定義された。最近シンプレクティック幾何の話をよく聞くので、これからも頑張ってついていきたい。
6/3(水)
台風だったので家に籠っていた。今日も今日とて Fourier-Mukai のゼミ準備をしていた。
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4. Derived Category and Canonical Bundle - Ⅰ
- 4.1 Ample (anti-)canonical bundle
- 4.2 Autoequivalences for ample (anti-)canonical bundle
- 4.3 Ample sequences in derived categories
4.1 は Bondal-Orlov の reconstruction theorem を証明する。当然激アツ定理だとは思っているのだが、主張が強すぎてまだこの定理のことは掴み切れていないなぁという感じがする。例えば標準束の (anti-)amplenesss が幾何的に何を仮定しているのか説明できない。これから具体的な幾何に触れていってだんだん言っていることが分かってくるのだと思っている。証明は、圏同値と Serre functor の交換 を考えて標準束の間に対応をつくり、標準環の Proj として元の多様体を "reconstruct" することで多様体の同型を構成するという流れだが、標準束の ampleness が圏同値で保存されることと、構造層が構造層に送られるように調整できることがかなり非自明になっている。後者について 今回のノート (直pdf)に書いた証明は、あい君に教えてもらった。ありがとう。
4.2 は同じく(反)標準束が ample という仮定の下、連接層の導来圏の自己同値がシフト・多様体自体の自己同型・可逆層とのテンソルの3種類で生成されるという定理だった。証明を見ればまぁそうかとはなるのだが、これもあまりに強いことを言っていてよくわからない。これはむしろ仮定が満たされないときに存在する非自明な自己同値の方が面白いということなのだと思う。Fourier-Mukai 変換の勉強に期待が膨らむところだ。
4.3 は次章への準備的な節で、適当な仮定の下で関手の忠実充満性や同値性を ample sequence 上のそれで判定できるという定理群であり、それぞれ非常に非自明だった。滑らかな射影多様体では $O(n)$ たちを並べた列は共終に切り出しても spanning class を成しており、連接層の導来圏の強力な骨組みとなっている。おそらく次章からいろいろ判定するときに技術的な道具として活躍するはずだが、これらの命題の証明に幾何的なところはなくほぼ純三角圏的な議論である。
6/2(火)
午後に上原・戸田「連接層の導来圏と代数幾何学」の内容周辺についてのゼミに参加させてもらった。Bondal-Orlov の reconstruction theorem、すなわち標準束か反標準束が ample なときに導来同値が同型を意味するという定理について聞いた。私も代数閉体上に限った形で4日の Fourier-Mukai のゼミで発表する予定だったのだが、それより一般的な形で示されている原論文の証明を見通しよく聞けてありがたかった。Hilbert スキームや Quot スキームについてもお話を聞けた。
コーヒータイムでは植田研の方にシンプレクティック幾何の話を伺った。良い射が簡単には定義できないため1-圏論と相性が悪く、自然に $A_\infty$ のような higher な構造が必要とされるということだった。とても面白そうではあるが、まったくもって手を出せる気がしない。
6/1(月)
今日は Fourier-Mukai 3章のゼミ準備をしていた。
- 3.4 Grothendieck-Verdier duality